4.4 パーミュテーション検定以外の統計的検定方法
前節まではパーミュテーション検定に焦点を当ててネットワークデータの統計的検定の枠組みを説明してきた。この手法はネットワークデータの検定に最もよく使用されるものではあるが、これ以外にも統計的検定の手法は存在する(Farine, 2017; Farine & Carter, 2022)。
4.4.1 指数ランダムグラフモデルと確率的アクター志向モデル
パーミュテーション検定以外によく用いられる手法としては、指数ランダムグラフモデル(expoential random graph model: ERGM)があげられる。ERGMは、グラフ上の辺をランダムに除いたり加えたりすることで生じるネットワークの変化をもとに、様々な要因(ノードの属性やノード間の関係)がネットワーク構造に与える影響を調べる手法である。具体的な理論や方法については、鈴木 (2017) や Borgatti et al. (2022) を参照。ERGMがネットワークデータに対する検定方法として不適切であることを指摘する研究者もいる一方で(Farine, 2017)、パーミュテーション検定と同等かそれ以上にうまく機能する手法であると考える研究者もいる(Evans et al., 2020)。
そのほかに経時的なネットワークデータを用いた手法として確率的アクター志向モデル(stochastic actor-oriented model)などもよく用いられる。詳細については 鈴木 (2017) や Borgatti et al. (2022) を参照。
4.4.2 ランダム化を用いない方法
パラメトリックな検定方法であっても、GLMMなどの混合モデルを用いてデータの非独立性や観察バイアスなどの情報をモデルに取り込むことで、パーミュテーション検定よりも適切な分析を行うことができると主張する研究者もいる(Hart et al., 2022)。また、P値ばかりに着目した分析を行うのは望ましくなく、ベイズ統計の枠組みを用いるなどして効果量により焦点を当てた分析を行うべきだという主張もある(Franks et al., 2021; Hart et al., 2022)。今後、パラメトリックな分析方法だけでもネットワークデータを適切に分析できるのかが検証されることが期待される(Farine & Carter, 2022)。